2026年8月21日
「卵はたくさん採れるのに、なかなか胚盤胞にならない」。
不妊治療では、採卵数が多ければ、その分だけ良好な胚が得られると考えられがちです。しかし、実際には必ずしもそうではありません。
今回ご紹介するのは、第1子治療時29歳、第2子治療時32歳と比較的若く、卵巣予備能も高い一方で、採卵後の培養過程で一貫して苦戦した患者さんです。
第1子治療時、29歳で初めて採卵を行いました。AMHは12.45 ng/mLと高く、採卵では14個の卵子を回収。しかし、最終的に凍結できた胚盤胞はわずか1個でした。
さらに、培養3日目の時点ですでに全体的に発育が遅く、一部では細胞分裂時の変性も多く認められました。
つまり、29歳という年齢を考えると採卵数は十分に得られているにもかかわらず、受精後の発育から胚盤胞形成までの過程で大きく減少するという特徴が、最初の治療から明らかになっていました。
それでも、その貴重な1個の5日目3AB胚を大切に移植し、第1子を妊娠。無事に経腟分娩されています。
その後、第2子を希望され32歳で再び治療を開始しました。AMHは17.63 ng/mLとさらに高く、採卵では17~19個と、十分な数の卵子を回収することができました。
ところが、ここでも培養成績は良好とは言えませんでした。
1回目の採卵では18個中、胚盤胞として凍結できたのは6日目3BCが2個。さらに2回目の採卵では17個を回収し、6日目4CBが1個。3回目の採卵では19個を回収し、6日目4BCが1個。
29歳の第1子治療時から32歳の第2子治療時まで、採卵数は十分に確保できる一方、胚盤胞到達率や胚の形態が不良という傾向が一貫していました。
このような症例では、「もっと卵を増やせばよい」と単純に考えるのではなく、採卵時の回収率、受精方法、培養中の胚の発育経過などを一つずつ振り返ることが重要です。
第2子治療でも、得られた胚の数が少なく、形態も決して良好とは言えない中で、患者さんの希望も踏まえながら移植を進めました。
そして最終的に、3回目の採卵で得られた胚の移植で、第2子の妊娠につなげることができました。
この症例からお伝えしたいのは、「採卵数が多い=妊娠につながる胚がたくさん得られる」ではないということです。
一方で、胚盤胞の数が少ない、形態が良くないという結果だけで、妊娠の可能性がなくなるわけでもありません。
年齢、卵巣予備能、採卵時の状況、受精後の発育、これまでに得られた胚の特徴などを総合的に見ながら、その患者さんにとって次に何を変えるべきか、あるいは何を変えずに続けるべきかを考えていく必要があります。
今回も、決して「順調に胚ができた症例」ではありませんでした。
29歳の第1子治療から32歳の第2子治療まで、採卵数に対して培養成績が一貫して不良だった患者さん。それでも、治療経過を一つひとつ振り返りながら採卵・培養・移植を重ね、2回の妊娠、そして2人のお子さんにつなげることができました。
不妊治療では、検査値や採卵数だけでは見えない「その方固有の特徴」があります。
「卵はたくさん採れるのに、なぜか胚ができない」。
そのような場合こそ、これまでの治療経過を丁寧に振り返り、次の一手を考えることが大切だと考えています。